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株式会社ヒロコーヒー外食アワード2015受賞

農園紀行 Single estate
 

 

名古屋COP10(第10回生物多様性条約締約国会議)の開催で生物多様性についての議論が盛んに行われているが、当然これらの問題が取り上げられるのは今にはじまった事ではない。

国際機関が初めて生物多様性の危機を取り上げたのは1992年ブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議」通称「地球サミット」と呼ばれるものだろう。

この地球サミットはほぼすべての国際連合加盟国の代表と4万人を越える人々が集った史上最大規模の国際会議であり、様々な地球環境問題や生態系の絶滅危惧種等に対する一般の関心が高まる契機ともなったと言われている。

 
COP10開催地の名古屋で行われたサステイナブルコーヒーを考えるシンポジウム。各認証団体と共に弊社も活動事例を紹介、全取扱いコーヒー豆を100%サステイナブルコーヒーに移行(2010年現在約75%)するコミットメントを発表した。
 

当時12歳のセヴァンは約6分間に渡り堂々とスピーチを行った。
 

その地球サミットが開催される約1年前。
会議が開催されるリオから遠く1万キロ離れたカナダで環境学習を行っていた子ども達の中にある少女がいた。少女の名前はセヴァン・スズキ(Severn Suzuki)。
少女はリオで地球環境の将来を決める会議が開かれることを知り「子どもこそ、その会議に参加すべき」と費用を貯めリオへ出向くと会議場そばのNGOブースでのねばり強いアピール活動を続け、子ども代表としてスピーチするチャンスを得る。そして14日間に渡って開催された地球サミット最終日、大国や開催国の元首を差し置いて最後に壇上につき「20世紀の最も重要なスピーチのひとつ」とされる「リオの伝説のスピーチ」を行ったのだ。

少女は100を超える国家元首達を前にして自身の出自をこう名乗った。
「こんにちは、セヴァン・スズキです。私はエコからやって来ました」

 

「伝説のスピーチ」が行われた地球サミットから18年後の2010年9月、私は自身3度目の訪伯でリオデジャネイロにいた。ブラジルでの買い付け&コーヒー生産に伴う環境問題の視察が主な目的だ。

スペシャルティコーヒーの生産地、ブラジル国土の23%を占めるセラード地帯は生物多様性の宝庫で16万種以上の動植物が生息する。そんなセラードが今危機に直面しているという。セラードの森林がエタノール原料となるサトウキビ畑に姿を変えているのだ。

世界がサブプライム問題で疲弊する中、その影響を最小限に留めたブラジル経済が発展を続ける理由。それはアメリカを中心とした世界的なエタノールへの急激な傾斜だ。アメリカはブッシュ政権時代に中南米諸国でサトウキビによるエタノール生産の促進で合意している。特にブラジルに寄せる期待は大きく、米連邦議会上院では15年以内にエタノールの使用量を現在の供給能力の5倍、360億ガロン(約1363億リットル)に義務化する法案が審議されているが、これも全てブラジルの増産を視野に入れてのプランだ。
 
ブラジルやインドネシアで安易に行われる焼き畑が二酸化炭素排出増加要因のひとつとなっている事が分かっている。火が大きく燃え広がり、森林火災となるケースも。
 

「セラードの森林伐採はアマゾンの熱帯雨林減少より速い」と国際NGOのコンサベーション・インターナショナル(CI)は警告する。同NGOの調査によれば従来、森林伐採に伴う法規制の強化に努めて来たブラジル政府もことエタノール増産に関しては例外の様で、現在も年300万ヘクタール、1分間にサッカー場2.6個分に相当する森林がサトウキビ畑に姿を変え、現状のままでは2030年までに消滅するとCIは警告している。

車窓に延々と続くサトウキビ畑を見ながらそんな環境問題を考える。エタノールで走る車に乗って生産地へと向かう自身の矛盾も含めて。

旧友は変わらぬ笑顔で迎えてくれた。
パウロ・セレソ・デ・アルメイダ氏。
彼はブラジルコーヒー生産量の10%を生むセラードの中でも最大のコーヒータウン、パトロシーニョ市で
ボタニカ農園を営んでいる。
 

2年ぶりの再会。ボタニカ農園の麻袋を日本でハンチング帽に仕立て直したお土産をおおいに気に入ってくれた。
 

「もう半年も雨がないから参ってるよ」収穫が終わり、今年の出来に満足しつつも、すでに来年の心配をするパウロ氏。話を聞くと彼の農園周辺でもサトウキビ畑は徐々に広がっているという。

サトウキビ農家のみ国から補助金が出るという事でコーヒーからサトウキビに転作する農家まである事を聞き及んでは「国策とはいえなぜ世界一のコーヒー生産国が?」とも考えたが、コーヒー生産も世界の経済活動に組み込まれている事を忘れてはいけない。

要は「コーヒーよりサトウキビが儲かる」のだ。そしてその状況を作った原因はコーヒーを「消費する」側にもある事を忘れてはいけない。

 


ナチュラルの乾燥工程。雨が降らない今年のセラード。通常1週間かかる豆の天日干しが3日で済んでしまったという。

 
セラードではその平坦な地形を利に大型機械を積極的に導入してコスト削減を図る力のある農園が多い反面、大型機械や灌漑設備を持たない小規模農園は今年の様な天候不順が続くと運営が厳しい状態に陥る。
 
アメリカで植物学を学び現在も研究を重ねる(ボタニカ「植物学」という農園名にもそれがうかがえる)パウロ氏の営農管理は高く評価され、生産管理だけでなく品質も厳しく審査されるセラード独自のサステイナブル認証「アペラシオン・セラード」を名乗ることが認められている。
 

「儲かる方がいいけど(笑)良いコーヒーを作ることを念頭に置いているよ。お客様は良いコーヒーを手に入れるのが当然だから」と語るパウロ氏はむしろ希少な存在か?
「聖書にあるように私たちは神様から土地を借りているだけなのだから、大切にしないといけない」と化学物質の使用を最低限にとどめて土地の力を最大限に利用するパウロ氏の営農管理にはたったひとつ、実にシンプルな理念がある。「何もしない。このまま娘達にこの土地を残さなきゃいけないからね」

将来をイメージする事が苦手な政治家達は、未来という物はもっと身近にある事をパウロ氏に教わればよい。


歯科医師でもあるヴァリジニアさんは毎日、午前中は近隣小学校の校医として勤務している。
 

ミナスジェライス州とサンパウロ州の境界となるマンチケーラ山脈の山間にかって走っていたモジアナ鉄道。イガラパーバからミナスジェライス側のコンキスタを三角形の底辺に終着駅のウベラーバ(MG)を頂点にした地帯は俗に「三角ミナス」と呼ばれ、廃線となった今でもコーヒー産地として「モジアナ」の名を残している。かっては日本人の入植も盛んで日本の優れた農業技術はコーヒー栽培における品種改良に多大なる貢献をしている。(ムンドノーボ種を開発した事で有名なカンピーナス農業研究所もこの周辺)

同地で訪れたのはセラード地区でも3農園を管理をするフェレーロ・ファミリーが運営するカナァア農園。フェレーロ家の長女ヴァルジニアさんが農園主を務める同園はモジアナでも希少なレインフォレスト・アライアンス(森林の保全を柱に地域社会への責任を求めたプログラム)認証農園でもある。
 

実は森林保全(農園の20%は森林保全または植林を行う)と水源保全(水源地より20m範囲の保護)の法整備がすでに整っているブラジルでは、コーヒー農園がレインフォレスト認証を得る事は(資本力のある大農園であれば)他生産国に比べさほど難しい事ではない。にも関わらずブラジル全土での2009年時点の認証農園は44カ所。確実に増えているとはいえ世界一の生産国の数字としていささか物足りないのは運営に伴うリスクを生産者が嫌うからである。この場合のリスクとは「(修得に伴う)コスト」と「手間」である事が多い。天候不順とNY相場に踊らされる生産者がこれ以上のリスクを嫌うのは、けだし当然とも言える。

ただ、各地を巡り認証を修得した生産者達と言葉を交わしてみてある共通項がある事に気付いた。
認証を得た生産者はこの「リスク」を未来への「インベストメント(投資)」であると考えているのだ。

 

ヴァルジニアさんは「生態系をできる限り保つのがコーヒー植え付け当初からの一貫したポリシーです」と語る。

農園管理をサポートする兄のワグネル氏が続ける。「生態系を保つには出切る限り減農薬に努めることが重要だ。当然害虫や雑草も増えて手間もかかる反面、本来害虫と同格に見られていたクモが害虫の天敵となり、雑草に肥料を撒き成長させてから刈り込み土中に戻す事で肥料とした結果、除草剤を一切使用せずにその結果害虫の天敵となる蜘蛛や鳥が多く住む理想的な環境が完成した。この農園は私達ファミリーのものだ。じいさんの代から私達の子ども達へとこの状態をずっと続けていかなければならない。」
 
幼少期のヴァルジニアさん。フェレーロ家の子ども達はコーヒーと共に成長していくのだ。
 

とにかくワグネル氏の「良いコーヒーを作ろう」という情熱は抜きん出ている。
ひとつの農園、ひとつの品種でフェレーロ・ファミリーほど細かくロット分けして収穫する農園はない。また味覚が自分の農園内で判断できるのでできれば順応性(収穫量)を考えて計画をすることが出来ると農園内にカッピングルームを設けSCAAカッピングジャッジを始めとする多くの専門家達によってテストを実施、何年かに亘り膨大なデータを集めている。これらは全て「未来への投資」なのだろう。

意見を衝突させ、日本からの訪問客などおかまいなしに大声でやり合っていたかと思うと、次の瞬間には並んで仲良くコメントをしてくれる兄弟を見て「何代にも渡って続く名門農園の哲学と近年のサスティナビリティの考え方は同義だ」との思いを強くする。

見事にシェイドが整った農園。
この木陰がコーヒーの生育に最も適する環境を生む。
 

西部に広大なセラードが広がるミナス・ジェライス州も東部マニュアス地方に移動すると随分趣きが違ってくる。山が迫り谷間に集落が広がる風景は中米のそれに酷似している為だろう。元航空技師であるヴィセンチ・ファリア氏の一家は5世代、約130年に渡ってコーヒー農園をこの地で営んでいる。

自然環境の保全に注意を払い政府より自然環境保全模範農園としての認定を受けたヴィセンチ氏の営農管理には前述の農園との共通項が多数見れる。

 

コーヒーのシェイドグロウン(日陰栽培)があまり認知されていなかった頃から換金樹木の目的で植えたユーカリがコーヒーの品質に重要な役割を果たしている事を経験則で感じ取った同氏は積極的に植樹を行い現在では彼のコーヒー農園は森林と見まごう様相を呈している。

結果、このシステムによりさらにコーヒーの品質が上がりコンクール入賞の栄誉も得ている。この方法は営農&営林の二重の手間がかかる為、そのリスクは決して軽い物ではないはずだが(ヴィセンチ氏の様な決して大きくない農家なら尚のこと)彼は「今日までの自らが歩んできたコーヒー栽培に対する努力に満足している」という。

そう、彼もまた「未来への投資」の意味を理解しているのだ。

 
規模農家の多いマニュアスでは大きな部類に入るヴィセンチ氏の農園では家族経営ならではのきめ細かさと元技師らしい厳格な管理方法が上手くミックスされている。「グッド・インサイド認証を申請したい」と語るヴィセンチ氏だったがトレーサビリティを柱とする同団体の理念に共感する部分があったのだろう。
 

新しい多くの栽培管理、生産システムを生み出しその技術を求め高めてきた36名の仲間達と共に「コーヒーのユートピアを求めて」生産者協会を設立した彼は「皆ユートピアを求めるが私にとってはそれは新しいアイデアを生む一つの出発点に過ぎない」と語る。コーヒー栽培は彼にとって生涯の情熱であり、又挑戦である。ユートピアへの夢は終り無く続き、夢が無くなれば、即ち人生の終りと考えるヴィセンチ氏は「品質の良いコーヒーを常に目標とし模範栽培者としての地位を維持してコーヒー栽培者一族としての歴史を大切に残していきたい」と語る。愛娘ルイザちゃんが農園を継ぐ頃には植樹したばかりだというオーストラリア杉が新たなシェイドを作り、コーヒーと生産者の新たなユートピアをさらに広げてくれている事だろう。

環境問題への対応が企業の社会的な責任とされる中、実は我々コーヒーマンは比較的その対応がとりやすい立場にある。
日陰で生育するコーヒーは森林を保護しつつ経済作物として成り立つ為に、企業倫理と社会倫理のバランスがとりやすいのだ。にも関わらずこの考え方に基づくサステイナブル・コーヒーへの取り組みが業界全体を見渡しても非常に低いという現実は、すなわち私自身が抱える矛盾(子ども達の未来を見据えて環境を考える親としての顔と利潤を求める事が必須である企業の経営者としての顔を両立させる事のなんと難しいことか)に対する写し鏡の様なものか。

私達が生きてきた上での経済活動は決して巻き戻す事は出来ない。しかし、変えていく事は出来る。いや、変わらねばならない。「生物多様性条約」が締結された1992年ブラジル リオデジャネイロで「会期中の一番すばらしいスピーチ」とアル・ゴア氏が絶賛し、その後の環境運動に大きく影響を与えた少女のシンプルな言葉は、時を経てさらに重く、切なく、激しく私達に問いかけてくる。

「オゾン層にあいた穴をどうやってふさぐのか、あなたは知らないでしょう。死んだ川にどうやってサケを呼びもどすのか、あなたは知らないでしょう。絶滅した動物をどうやって生きかえらせるのか、あなたは知らないでしょう。そして、今や砂漠となってしまった場所にどうやって森をよみがえらせるのかあなたは知らないでしょう。どうやって直すのかわからないものを、こわしつづけるのはもうやめてください。」

You don't know how to fix the holes in our ozone layer.
You don't know how to bring salmon back up a dead stream.
You don't know how to bring back an animal now extinct.
And you can't bring back forests that once grew where there is now desert.

If you don't know how to fix it, please stop breaking it!
ヒロコーヒー
焙煎責任者 山本光弘