株式会社ヒロコーヒー採用情報

株式会社ヒロコーヒー外食アワード2015受賞

世界のカフェレポート World cafe report
 

近年サードウエイブ系と呼ばれるカフェが様々な媒体で紹介される事が多くなった。
またそれによってコーヒーに興味を持つ若者が増えてきたのはコーヒーマンとして非常に喜ばしいと感じる反面、昭和40年代の喫茶店文化繁栄から衰退を間近に見てきた立場で言わせて頂くとマテリアルやスタイルばかりにフォーカスして本質的な部分をおざなりにしているショップが増えている事に関しては若干の不満も感じている。

筆者が雑誌にもよく紹介されている東京の有名バリスタの個人店に足を運んだ時のこと。
質の高いカップを提供されていたのは間違いないのだが正直居心地の悪さしか感じなかった。
入店してから帰るまで「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」の言葉を発する事もなく淡々と作業をする笑顔のないスタッフ。
客席で仲間らしき人と談笑するのに忙しい様子のオーナーのバリスタ。
10分座れば痺れてくるイスと英語表記のみのメニュー。
運営方針にもの申すつもりはないが、私が客として足を運ぶことはもうないと思う。

飲食&サービス業におけるカフェ(喫茶店もこの中に含もう)の立ち位置は他業種とは決定的に違う。
ラーメン屋を例にとってみよう。
ある店が最高に旨いラーメンを提供したとする。
この場合、店主が無愛想でも立地が悪くとも味を憶えてもらえれば繁盛店になる可能性がある。
一方、カフェではどうか?
最高の一杯を提供出来たとしてもサービスが伴わなかったり内装が安普請なものでは繁盛店とはなり得ない。
もっと言うとコーヒーが「そこそこの味」でも笑顔の素晴らしいウエイトレスがサービスしてくれるということで町の繁盛店となっている例は数多くある。
何もコーヒーの味はどうでもよいと言っているのではない。消費者がカフェに求める要素の中で「おもてなし」の項目の比率が他の飲食業と決定的に違うのだ。

 

イギリス統治時代を色濃く残す趣のある街並み
  ここに特化して大成功したのがシアトル発祥で今や世界一のコーヒーチェーンS社である。
S社ではおいしいコーヒーとバリスタのもてなし、くつろげる空間、そして魅力的なサービスによってすばらしい体験(=エクスペリエンス)をしてもらう場所が店であると位置づけ、家でもなく学校や会社でもない「3番目の場所=サードプレイス」を提供することで消費者の圧倒的な支持を集めている。
我々コーヒーマンが学ぶべき点が多いS社であるが、唯一苦戦をしている土地があるという。
世界有数のコーヒー文化を誇るオーストラリアである。
世界一のコーヒーチェーンS社の成功は本格的なエスプレッソコーヒーをアメリカに持ち込んだ点にあるが、コーヒー文化が根付いていたオーストラリアでは「何を今更」ということで、オーストラリアに進出したものの、4分の1を残して大部分の店舗は閉鎖を余儀なくされ現在に至っている。
 

地元紙(SMH)の2008年7月29日付の”S' closes 61 shops, cuts 700 jobs”という記事では

”The American company admitted it had struggled in Australia's "very sophisticated coffee culture

S社は「オーストラリアのとても洗練されたコーヒー文化市場おいて苦戦を余儀なくされた」ことを認め、

”Associate Professor Nick Wailes, a strategic management expert at the University of Sydney, said Starbucks had failed to understand the Australian market. "S' original success had a lot to do with the fact that it introduced European coffee culture to a market that didn't have this tradition. Australia has a fantastic and rich coffee culture and companies like S' really struggle to compete with that."

シドニー大学の経営戦略のニック・ウェイルズ助教授によれば"S社はオーストラリアのコーヒー文化を理解しそこねたのだと指摘し『S社の成功の 原点は、ヨーロピアンコーヒー文化が根付いていない国にこれをもたらした所にあるのだが、オーストラリアのようにファンタスティックで豊かなコーヒー文化を持っている国においては太刀打ちすることが出来なかったのだろう』とコメントしている。

 

多彩なフードメニューが人気のショップも多いが、あくまで主役はコーヒー。どの店も中央には存在感のあるコーヒーカウンター

 
地元の人気カフェは絶えずにぎわっている
 

倉庫や事務所などをリノベーションした
ショップが多いのも特徴のひとつ
  「パリよりもカフェが多くある」といわれるほど、市内を歩いていると至る所にカフェがあるメルボルン。
この「カフェがたくさんある」というのは、何もここだけに限ったわけではなく、オーストラリアの主要都市にはどこでもたくさんのカフェがありヨーロッパ風の洒落たオープンエア・カフェも多い。
オージー達も皆カフェが大好きで仕事の休憩や友達との待ち合わせはもちろんランチタイムや休みの日もカフェに繰り出してはコーヒーや紅茶で一服しながらくつろいでいる。
もともとイギリス文化圏であるオーストラリアでは伝統的には紅茶文化がメインだったが食の大国イタリアをはじめとして、色々な国からやってきた移民達が徐々にオーストラリアの食生活を塗り替えてきた。
 

閑静な街並みに行列を見つけたら
そこにはカフェ。
  有名になったオーストラリアワインも戦後にやってきたイタリア系、ドイツ系などの移民がワイナリーを作るところから広げていったと言われる。イギリス直系の人達だったらこうはいかなかっただろう(少なくとも筆者はイギリスワインなるものを聞いた事がない)。
 
オーストラリアでは圧倒的にコーヒー系の飲み物が人気でメニューには十数種類もの「コーヒー系」が並んでいることが多い。こんな有様を紅茶好きのイギリス人達は、ちょっとヒニクを込めて「Caffeine culture(カフェイン文化)」と呼ぶほどだ。
 


 

一般的なカフェに入りざっとメニューボードを見渡しただけでも

・Flat White(フラット・ホワイト)=ミルク入りコーヒー
・Cappucino(カプチーノ)=イタリア式の泡立てミルク入り
・Cafe Latte(カフェ・ラテ)=コーヒーとミルクが同量
・Long Black(ロング・ブラック)=普通のブラック・コーヒー
・Short Black(ショート・ブラック)=エスプレッソ
・Espresso(エスプレッソ)=Short Blackと同じ
・Double Espresso(ダブル・エスプレッソ)=量が2倍のエスプレッソ
・Macchiato(マキアート)=エスプレッソと少量のスチームドミルク
・Macchiatone(マキアトーネ)=Macchiatoよりミルクが多いもの
・Mocha(モカ)=豆の種類ではなくココアと半々のミルク・コーヒー
・Mochacino(モカチーノ)=ミルクが泡立ててあるMocha
・Vienna Coffee(ヴィエナ・コーヒー)=日本でいうウインナ・コーヒー
・Skinicino(スキニチーノ)=牛乳の代りにスキム・ミルク入り
・Babycino(ベビーチノ)=お子様向けコーヒー
・Iced Coffee(アイス・コーヒー)=アイスクリームや生クリーム入

といった具合にそのヴァリエーションの豊富さには驚かされる。

 
合わせて今回の視察で最も強く感じたのがサービスの質の高さである。
訪問させて頂いたカフェの多くで見受けられたのはサービス係の素晴しい笑顔とバリスタの計算されたパフォーマンス、そして演出効果を意識したマテリアル選び。
これらを全て客目線でサービス(空間提供)した上で質の高いカップを提供するカフェが多数あるのだ。
こういったコーヒー文化がある土地だけに近年のサードウエーブ系カフェの広がりも世界屈指のレベルで、各国で開催されているバリスタ・チャンピオンシップやブリュワーズ・カップといった世界大会とコーヒーEXPO(Melbourne International Coffee Expo 2013)が2013年5月に開催されるにあたってその盛り上がりは一旦ピークを迎えたといっていいだろう。
 

抽出技術世界一を決めるブリュワーズカップ

 
人でごったがえす地元のロースターブース
  EXPOの展示で大手チェーンのブースと比べて半分くらいの大きさしかない地元ロースター(これがまた多い。10社は出展していたか)のブースが大手の倍以上集客して、しっちゃかめっちゃかになっている光景はなんとも痛快だった。
「余暇ビジネス」という言葉をご存じだろうか?
これは今や世界的な企業である任天堂の成功によって注目されるようになった言葉だ。
任天堂はもともと花札を作っていた会社だった。しかし、当時の社長が「花札」という限られた視野から、ひとびとが「より余暇を楽しむ」ための手伝いをする会社であるという視点を持っていたために、ファミリーコンピューター、いわゆるファミコンやスーパーファミコンが開発され、それによって 任天堂は世界的に大ヒットする商品を手がける一大メーカーとへの成長を果たしたのである。このように余暇ビジネスというのは「より余暇を楽しむ」という無限の可能性を視野に入れて事業を行うことで、消費者のニーズに先回りして商品を提供することができる。このロジックに基づきニーズに先回りして商品を提供するということ、たとえば「早い」「安い」といった今まで単純に追及されてきた視点を変え、オーストラリアのカフェにおいては味のクオリティ〜空間の提供へと変化してきたのだろう。
 
   
サービスとは人なり
 
大きなマーケット内にあるカフェを探していた時のこと。
通りかかったご婦人に道を尋ねたところ随分離れていたにも関わらずそのまま店まで案内して下さった。(道すがらその店がどんなに素晴らしいか延々と語りながら!)
ご婦人にすれば「自分たちの店」にわざわざ遠方から訪ねてきてくれたのが余程うれしかったのだろう。
店の前まで私たちを案内し「Enjoy!」と言い残して立ち去ったご婦人の後ろ姿が自慢げだったのがなにより印象的だった。
 
オーストラリアでのカフェの多くは「空間(店構え・サービス)」をコーヒーと同じくらい重要視し、家・学校や職場以外の新しいくつろげる空間としての場所を提供するビジネスを行っている。「余暇ビジネス」としてのカフェ事業最大の差別化を彼らはオーストラリアでのコーヒー文化を育む中で経験値を積み上げてきたのだ。
自分たちの「余暇」を楽しむ場所を消費者が大事にしないわけがない。
想像ではあるが、かつてアメリカから大手コーヒーチェーンが上陸を果たしてきた際にオージー達は「自分たちの店」を守るために懸命になったのではないだろうか?
そうなっては失礼ながら後発では勝てっこないのである。
「自分たちの店(居場所)」を大事にしない人などいない。店とは「人(店員)が作り」「人(客)が育てる」ものなのだから。
 
ヒロコーヒー
焙煎責任者 山本光弘
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