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株式会社ヒロコーヒー外食アワード2015受賞

世界のカフェレポート World cafe report
 

今、様々な業界で従来の考え方と異なる新たな価値観を創造する動きが高まっている。
ファッションではファストファッションを完全に着こなした若い世代を中心にナショナルブランド離れが加速し(息子に聞いた所では今や1●9でさえ大学生は高いと敬遠するらしい)、ネットで買う事が当たり前となった書籍を扱う街の本屋の多くは廃業や個性を生かしたセレクト系書店へと変化を遂げている。

 イノベーションが進む業界ほどこの流れは顕著で、各チャンネルで技術革新が著しいコーヒー業界も例に漏れず世界的な「サードウェイブ・カフェ(第三の波)」の波が押し寄せている。
 すでに何度かご紹介してきた「サードウェイブ・カフェ」ではあるが、今回短い期間で「サードウェイブ・カフェ」発祥の地、アメリカの西海岸と東海岸を訪問する機会を得たので、自身の備忘録を兼ねてここに書き留めておきたい。

 CASA BrutusをはじめPenやmeets等のトレンド系ムックが「サードウェイブ・カフェ」を取り上げるに至って今や観光プランの選択肢のひとつにもなっている西海岸の「サードウェイブ・カフェ」巡り。今回は未視察だったサンフランシスコを訪れた。

買収した通販サイトからの売上が好調との事、工場ではリテール向けの焙煎、梱包作業が合間無く続くいていた【BLUE BOTTLE COFFEE】

工場脇のラボでは毎日この様な形でカッピングを行っている【BLUE BOTTLE COFFEE】

店内入り口にはProbatを設置、滞在時も休み
無く焼上げていた【SIGHT GLASS】

有名な楕円カウンター。サードウェイブでは店内中央にカウンターを据えるレイアウトも多い【SIGHT GLASS】

西海岸の「サードウェイブ・カフェ」は今大きな変革の時期にきている。
 大手SNSの資本が加わったショップが相次いでオープンしたり、我々が到着した際にも地元有名バリスタの店舗が同じく地元ロースターに買収されたとのニュースが伝わってきた。ただしビジネスが上手くいっていないというよりは、「サードウェイブ・カフェ」がもっと大きな波になる為の再編が進んでいるといった印象が強く、事実その後訪れたニューヨークでは西海岸発の「サードウェイブ・カフェ」ブランドを数多く見る事が出来た。

 

オーダーのほとんどはエスプレッソ系に集中している様子。ドリップコーヒーは別のカウンターでオーダーを受けてドリップする高価格帯商品の位置付け【FOUR BARREL】
 
サードウェイブカフェの創業者にはここの出身者も多い【FOUR BARREL】

西海岸と東海岸では「サードウェイブ・カフェ」の在り方は少し違う様だ。
 西海岸には(土地の経済条件の影響も大きいが)日本でいう所の大バコ、大きな客席を有したショップが多い。客席では多くの客がMac Noteを広げ、ノマド・ワーカーの巣窟といった様相である。西海岸ではシアトル系カフェ発祥の考え方でいう所のもうひとつの場所「サードプレイス」を提供しているのに対し、総じてニューヨークの「サードウェイブ・カフェ」はテイクアウトのコーヒーを提供する事で「通り過ぎる場所」に徹している(郊外のカフェはこの限りではないが)。

 

ドリップ用の器具を日本製で合わせるのがサードウェイブ・スタイル【BLUE BOTTLE】

 
ロックフェラーセンター地下の店舗は間口が狭く奥に長い日本
のセルフカフェに似た構造。奥の客席に持ち込むよりも
圧倒的にテイクアウトの比率が高い【BLUE BOTTLE】

メニュー構成はほぼコーヒーのテイクアウトのみ。西海岸の店
舗では標準の物販棚もここではかなり小さめ
【STUMP TOWN】


西海岸発ロースターのショップは流石の繁盛具合
【STUMP TOWN】

サードプレイス」を提供出来ないのでは、全国チェーンとの差別化が難しいかと思うかもしれないが「サードウェイブ・カフェ」は続々とニューヨークを目指している。
ここにサードウェイブ成功の要素が隠れている。
彼らは今までありそうで無かった新しい概念を持ち込む事で成功した。
それは単純明快、「コーヒーの美味しさ」を追求したのだ。

私見ではあるがコーヒーほど「美味しい」の基準が曖昧なものはなかったのではないだろうか。種類も様々、缶コーヒーからラテアートの施されたものまで千差万別。しかし、この20年程でやっとその “美味しさの基準” が共通認識として情報共有されはじめだした。 
実はこれこそが「サードウェイブ」の本質ではないかと思う。

こちらは各社の豆を取り扱うセレクト・ショップ。インテリアもウォーホールのリトグラフなどNYテイスト
【WHYNOT COFFEE】

OSLOと同じく住宅街にあるが、こちらは1階、2階に客席を設置。メニューもフード、アルコールにまで豊富なラインナップ
【WHYNOT COFFEE】
ファーストウェイブと呼ばれる昭和40年代の喫茶店ブームの際に日本中に広がった喫茶文化。
 しかしここには「美味しさ」を追求する姿勢より「人々が何もしない為」に集まる場所を提供する事に重きを置いたフシがある。一方、セカンドウェイブであるシアトル系カフェは自宅や職場以外のもうひとつの場所、「サードプレイス」を提供し「人々が何かをする」場所を提供する事で成功し、そこにコーヒーの楽しみ方という概念をプラスした。日本の喫茶店文化が衰退し、シアトル系カフェがその数を増やしているのを見てもどちらが時代の波に乗ったかは明らかだ。「サードウェイブ・カフェ」はその流れを加速させたインディペンデント系カフェが生み出したネオ・セカンドウェイブとも言える。
今回もこの「サードウェイブ・カフェ」を中心にした視察ではあったが、そこで見えてきたのは意外な事実だった。
 

ショップがあるのはマンハッタンの外れにある閑静な住宅街
【OSLO COFFEE】
 
住宅街にあるショップだが客席はなく全てテイクアウト対応
【OSLO COFFEE】
 
インディペンデント系の「サードウェイブ・カフェ」が最も注力しているのはフルーツとしてのコーヒーをプレゼンする事と”美味しさの基準” を作る事だ。それがシングル・オリジンと呼ばれる単一農園でのロット管理やテロワール(産地特性)、バラエティ(品種)に特化したカップ・セレクションであり、カップの美味しさを見える化したスコアシートだ。
 コーヒーをメインアイテムとするカフェ業界にはこの考え方が不足していた。
 というより劇的に進化した栽培、精製、運送技術の結果生まれた新しい(コーヒー本来の)楽しみ方の情報を常にアップデートして消費者に届けるべきカフェ業界がオーガナイザーとしての機能を果たせていなかったのだ。コーヒーの進化形を提示すべき旧来のカフェやロースターが立ち後れる姿を横目にインディペンデント系の「サードウェイブ・カフェ」が躍進したのにはこんな背景がある。加えて「サードウェイブ・カフェ」には「コーヒーを売る」コンセプトが明確になった素晴しいショップが数多い。
 私自身、この大きな流れは本来あるべき形であると思うが一点、気になる事もある。
 
こんな言葉をご存知だろうか?
 「ジャンルはマニアが滅ぼす」
 様々な業界で新しい流れを仕掛ける側がよく使う共通の戦略がある。新しいウェイブをいきなり大きな波にするのにはコストもリスクも伴う。仕掛ける側はそれを避け、まずはマイノリティ(マニア)に集中したマーケティングを行いニッチなマーケットを作る。そしてこの流れを徐々に大きなものにしていく訳だが、肝心なのはより大きなマーケットを作るタイミングでそれまでのマニア層に向けたマーケティングを切り捨て、マジョリティ(一般向け)のマーケティングへ一気に移行するのだ。新しい価値観を訴求するジャンルは「一般と同じもの」を排除しようとするマニアには受ける。しかしマニア層を囲い込むほど一般への訴求効果は減少し、やがてマーケットが先細りになるのはファッション、音楽など常に新しい流れを生み出さなければならない業界の動向を見れば明らかだ。
 日本のサードウェイブは今、この仕掛けのタイミングに来たと感じる。
 本質を理解せず、ファッション的なビジュアルやコンセプトを重視し過ぎた(マニアにより過ぎた)インディペンデント系サードウェイブ風のカフェがポツポツ出来るだけで終わってしまうと日本のコーヒー文化にとっては大きなマイナスだ。
 ではサードウェイブをどの様に日本のコーヒー文化に取込めばよいのだろう?
 その答のひとつになるのが日本に根付いた「喫茶店文化」ではないかと私は考えている。
そもそも欧米と日本ではコーヒーの楽しみ方が違っている。アメリカでさえ西海岸と東海岸で違うのだから当然と言えば当然で、海外で受け入れられている「サードウェイブ・カフェ」をそのまま持ち込んでも日本の文化にはなかなか馴染まないだろうし、つきつめると日本が誇る「喫茶店文化」が進化して「サードウェイブ」の一端を担うべきだと考える。
西海岸では2014年日本進出を控える「サードウェイブ」の旗頭と呼ばれるロースターとミーティングを行う機会を得た。その際に先方から出た言葉は「我々は日本の喫茶店文化をリスペクトしている」というものだった。ここの創業者がもともと日本の喫茶店に惹かれて起業したのは業界では有名な話だが、それ以上に彼らの「日本の喫茶店文化」に対するあこがれとそれに挑戦する並々ならぬ決意を感じた。「サードウェイブ」は時代を前に進める可能性を持っている。その一翼を担うグループがリスペクトする貴重な財産をないがしろにする事は日本のコーヒーマンとして、喫茶店文化を作り上げた先人達に対してあってはならないと思うのだ。

日本での大成功を踏まえてコンビニエス・ショップがカップコーヒーを販売するのは世界的な流れの様だ。(2013年コンビニ・コーヒーは実に10億杯!を売り上げた)
 一年で驚異的な成長を遂げたコンビニ・コーヒーと“知っている人は知っている”「サードウェイブ・カフェ」。一方は徹底的に合理化した製品であり、もう一方は顧客への付加価値訴求が必須となる製品なので現状はマーケットの棲み分けが出来ているものの5年後にコンビニ店内でコーヒーを飲みながらソファでくつろぐ人がいないと言い切れる自信は私にはない。
 
 果たしてサードウェイブが日本のコーヒー文化にとけ込めるのか?おそらく数年で結果は出るだろう。その時に「喫茶店文化」を取込んだ新しい形、日本版サードウェイブが生まれている事を願ってまとめとしたい。

ヒロコーヒー
焙煎責任者 山本光弘

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