釜山コーヒー文化の歴史

釜山における小さなコーヒースタンドの起源は、19世紀末にまで遡る。
当時、港を通じて外国文化が流入し、コーヒーが初めて韓国の土壌に根を下ろしたとされる。
歴史によれば、1896年にロシア公使の義理の妹が朝鮮王朝の最後の王、高宗にコーヒーを振る舞ったことがその始まりとされており、これが後に近代化と西洋文化の象徴となった。

20世紀に入り、釜山が重要な貿易港として発展する中で、コーヒーは徐々に市民生活に浸透していった。
現在の釜山では、海雲台や広安里のビーチ、甘川文化村の虹色の坂道など、いたるところで小さなコーヒースタンドが宝石のように散らばっているのを見かけることができる。
これらは観光客を引き寄せ、インスタグラムに収められるスポットとして注目を集めている。
地元の人々は「これらのスタンドが釜山の日常に彩りを与える」と語り、朝の通勤や午後の休憩に立ち寄る習慣が生活の中に根を張っている。

2000年代初頭から、韓国全体で「第三の波」コーヒーブームが広がり、釜山でもその影響が顕著に現れた。
Blackup Coffeeを皮切りに、個人経営の小さな焙煎所やスタンドが次々と登場し始めた。
これらのスタンドは、限られたスペースを巧みに活用し、移動式のカートや簡易的なカウンターで営業を始め、気軽に立ち寄れる憩いの場として人気を博した。

2015年以降は、釜山の各地域でカフェ文化が花開き、小さなスタンド以外にもMomosのようなロースタリーが登場し、地域のコーヒーシーンに貢献している。
これらのコーヒーショップは、単にコーヒーを提供するだけでなく、釜山の歴史的な倉庫街や路地裏を活用したクリエイティブな空間として発展し、かつて工業地帯だった場所がカフェ街として生まれ変わる中で、地元の職人や若手起業家の活動拠点となり、釜山の多様な文化を映し出すシンボルとなっている。
2025年初夏、波の音を聞きながら、コーヒーの香りを道しるべとして、私は釜山のローステリアを巡る旅に出た。

Momos Coffeeの洗練された一歩

影島の静かな路地に佇むMomos Coffeeに足を踏み入れると、まるで時が緩やかに流れる別世界に誘われる。大きなガラス窓から差し込む柔らかな自然光が、磨かれた木の床に温かな光の帯を織りなし、店内の空気を優しく満たす。
中央に堂々と構える焙煎機は、まるでこの空間の守護者のように存在感を放ち、金属の輝きとコーヒー豆の香りが調和して、訪れる者の心を掴んで離さない。
2019年ワールドバリスタチャンピオンシップで頂点に立ったチョン・ジュヨン氏が手掛けるこのカフェは、スペシャルティコーヒーの新たな地平を切り開く聖地だ。その名は、釜山のコーヒーシーンにおいて革新の象徴として響き合い、世界中からコーヒー愛好家を引き寄せている。

カウンターに近づくと、バリスタの手元から漂う豆の香りが鼻腔をくすぐる。丁寧に淹れられる一杯一杯に、職人の魂が宿っているかのようだ。注文した「キャンディ」コーヒーは、まるで釜山の海辺に吹くそよ風を閉じ込めたような一杯だった。その余韻は穏やかで、飲む者を港町の静かな朝へと連れ戻す。カップを手に窓辺の席に腰を下ろすと、ガラス越しに見える影島の街並みが、コーヒーの香りと共に柔らかく滲む。地元の人々がふらりと立ち寄り、バリスタと笑顔を交わす姿は、このローステリアが単なる店舗を超え、コミュニティの心臓として脈打っていることを物語っていた。

Waveon Coffeeの海辺の詩

釜山の海岸線に佇むWaveon Coffeeは、モダンな外観が目を引く。外壁のロゴと大きなガラス窓が青空と調和し、海と一体化した建築のようだ。入口近くの巨大なコーヒーカップのモニュメントが訪れる者を迎える。駐車場には地元の人々の車が並び、日常の賑わいを感じさせる。

店内では、青いユニフォームのスタッフが丁寧にコーヒーを淹れている。焙煎機の音と海のさざ波が混ざり合い、独特の雰囲気を醸し出す。浅煎りのエチオピア豆だろうか、フルーティーな香りが漂う。

テラス席に腰を下ろすと、果てしない海と松の木々が織りなす風景が広がる。六角形のコンクリート製テーブルと青紫のクッションが、モダンさと自然の調和を演出する。遠くの船を眺めながらコーヒーをすすり、波に寄り添う穏やかな時間が流れる。地元の若者や観光客が静かに会話を楽しむ姿が、この場所の自由な精神を物語る。

Terarosa Coffeeの工業的な詩情

西面エリアのTerarosa Coffeeは、工業的な内装が特徴だ。高い天井の鉄骨構造と黒い照明が独特の雰囲気を醸し出し、巨大なアンティーク焙煎機が王座のように鎮座する。吊り下げられた金属の細線が空間を優雅に仕切り、アートギャラリーのような趣を添える。 カウンターでは、スタッフが丁寧にコーヒーを淹れる。注文した深煎りブレンドは、豊かな香りとコク深い味わいにほのかな甘みが広がる。窓辺の席でカップを手に街並みを眺めると、赤いソファや木製テーブルが配置された空間が、静かな会話に最適な場を提供している。街の音とコーヒーの香りが調和し、釜山の日常を切り取ったひとときが流れる。午後の陽光がガラス窓を照らす中、このカフェは工業的なデザインとスペシャルティコーヒーのクオリティが融合した、釜山のコーヒー文化の重要な一翼を担う存在だ。

JM Coffee Roasterのモダンな静寂

機張の大辺港にあるカフェJM Coffee Roasterに足を踏み入れると、まずその未来的な内装が目を奪う。大きな曲線を描く天井と、緑に囲まれたガラス張りの壁が自然光を取り込み、空間に穏やかな雰囲気を生み出している。店内中央には、洗練されたデザインの焙煎機が芸術品のように設置され、その黒と銅色のコントラストが技術と美の融合を象徴している。複数の焙煎タンクが整然と並ぶ姿は、コーヒーへのこだわりを物語る。店内には木製のテーブルと座席が配置され、階段状のデザインが訪れる者にリラックスした空間を提供している。

窓辺に座り、緑の庭園を眺める。外の自然と内装のモダンさが共存するこの場所は、静かに思索にふけるのに最適だ。カフェは単なる飲食の場を超え、社交と休息の聖域となっている。遠くに聞こえる街の音が、静寂の中でかすかに響き、釜山の多様な顔を垣間見せる。

旅を終えて感じるのは、釜山のスペシャルティコーヒーが単なる飲料を超え、街の魂を映し出すものだということ。Momosの革新性、Terarosaの工業的詩情、Waveonの自然との調和、JMの深遠な味わいがそれぞれの個性を際立たせている。さらに、街角に点在する小さなコーヒースタンドが、釜山のコーヒー文化に親しみやすさと活気を与えている。
最後の一口を味わいながら、私はこの街のコーヒーシーンが今後も進化を続けることを予感し、次なる訪問を心待ちにしている。

2025年現在、釜山は港湾都市としての利点を活かし、新鮮な豆を迅速に供給できる環境を背景に、コーヒー文化がさらに深化している。
この街のコーヒーの歴史は、釜山が抱える変化と持続性の物語そのものだ。工業から文化へ、グローバルからローカルへと移行する中で、これらのスタンドはコミュニティの中心として機能し続けている。今後も、釜山のコーヒーシーンは新たなアイデアと伝統が交錯する場として進化し、小さなスタンドがその魂を担う存在であり続けるだろう。街を歩きながら漂うコーヒーの香りに心を寄せると、過去と現在が調和するこの都市の深遠な魅力を感じずにはいられない。

株式会社ヒロコーヒー代表
焙煎責任者　山本光弘